主催 岩手県、公益社団法人岩手県青少年育成県民会議 2016.2.17
社会生活に困難を有する子ども・若者支援公開講座
〜子ども・若者が健やかに成長し次世代の社会を担うために〜
「不登校・ひきこもり・ニート」
−子どもの心と向き合うために−」
(特)教育研究所 理事長 牟田 武生
不登校・ひきこもり・ニートという現象をグローバルな視野で見ると…
米のメディア・グループ、ナイトリッダー社の東京特派員マイケル・ジレンジガー氏の「ひきこもりに関する本」shutting out the sun(06.9)が欧米で初めて発売され、日本を理解する新たな視点を提供している。ジレンジガー氏はひきこもりが日本社会を内包する症状と考えている 日本社会が内包する症状とは、不登校・ひきこもり・日本的なNEET・パラサイトシングル・おたく化・ネットカフェ難民などをさしている。
社会参加したがらない「非社会的行動をとる」これらの若者の多くは、政治に無関心であるため市民意識(シチズンシップ)が育たず、若者が社会参加しないために地域や社会が活性力を失い崩壊していくプロセスの一つの引き金になる可能性が高い。
非社会的行動は二つ
ブラックゾーン…ひきこもり・NEET・おたく・ホームレス・(不登校)
グレーゾーン……パラサイトシングル・自分の意思によるフリーター・子どもが欲しくない夫婦・ネットカフェ難民・意図的な非婚主義
※欧米の諸外国の青少年問題のほとんどが、性暴力、窃盗、麻薬、殺人など、反社会的行動である。それに対し、日本では非社会的行動が多い。
※マイケル・ジレンジガー、現在カルフォルニア大学バークレー校東アジア客員研究員
牟田武生 07.9東京都北区子ども家庭部子育て支援講演レジュメより
最近の不登校
全体に占める割合
平成13年度 小学生 0.36% 中学生 2.81%
平成25年度 0.36% 2.69%
学年別、学年が上がるにつれて増加、特に小学6年生から中学2年生にかけ、大きく増加。
不登校になったきっかけ(文科省 平成25年度「問題行動等調査」より)
不安など情緒的混乱 無気力 親子関係 いじめを除く友人関係
小学生 35.3% 23.0% 19.1%
中学生 26.2% 26.2% 15.2%
進路の状況等 平成5年度不登校追跡調査と平成18年調査比較
高校進学率 65.3%→85.1%
高校中退率 37.9%→14.0%
大学・短大・高専への就学率 8.5%→22.8%
専門学校・各種学校への就学率 8.0%→14.9%
不登校の背景と社会的な傾向
・社会性が育たず、自尊感情の乏しさ、人生の目標や将来の職業に対する夢、希望なし
無気力な者が増加、耐性がなく、コミュニケーション能力が低い。
・保護者の側では、核家族化、少子化、地域における人間関係の希薄化などにより、家庭が孤立し、過保護・過干渉、育児への不安、しつけへの自信喪失により課題の抱え込み
・経済的には、金融危機などの経済的停滞、生活の余裕がなくなり、虐待、無責任な放任などの増加傾向にある。学校に通わすことが絶対ではないとする保護者の意識変化。
平成5年度不登校追跡調査と平成18年調査比較して大幅な変動のあるもの
「友人との関係」44.5%→52.9%
「家族の生活環境の急激な変化」4.3%→9.7%
また、「生活リズムの乱れ」が2番目に多い。
18年度追跡調査(平成26年7月文科省公表)
不登校の継続理由からの傾向を分析結果
「無気力型」40.8%、「遊び・非行型」18.2%、「人間関係型」17.7%、「複合型」12.8%
「その他型」8.7%に類型化
「不登校の継続理由」と関連が高い「不登校のきっかけ」としては
無気力でなんとなく学校にいかなかった
「勉強がわからない」「生活リズムの乱れ」「インターネットやメール、ゲームの影響」
遊ぶためや非行グループに入っていた
「学校のきまりなどの問題」「生活リズムの乱れ」
いやがらせやいじめをする生徒の存在や友人との人間関係
「友人関係」「クラブや部活動の友人・先輩との関係」
文科省の不登校に対する基本的な考え方
不登校対策は、学校に登校するという結果のみを最終目標にするのではなく、児童生徒らが自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す。
また、場合によっては、学校復帰以外の選択肢を提示することが、児童生徒の社会的自立に向けた支援になることを認識する必要がある。
ひきこもりと生活困窮者
厚労省定義「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」
生活困窮者自立支援法は包括的な支援(ソーシャル・インクルージョン)を目指すことが理念として掲げられている。それは現在、経済的困窮以外にも、将来にわたっての困窮も含まれ、また、独居高齢者やひきこもりなどの人間関係の貧困(社会的孤立)にも対応していく。
具体的には福祉事務所が設置してある市町村には、総合相談窓口(自立支援センター等の名称)が設置されている。
主な事業は
「自立相談支援事業」生活上の困りごとに対して、一人ひとりの状況に応じたライフプランの作成
「就労準備支援事業」社会との関わりに不安、他人とコミュニケーションがうまくとれない等により、直ちに就労が困難な方に6カ月から1年間、プログラムにそって就労に向けた基礎能力を養いながら就労相談や就労機会の提供
「就労訓練事業」直ちに就労することが困難な方にあった作業機会を提供し、個別就労プログラムにそって中長期的視野で就労訓練事業(中間的就労)を行う。
ひきこもり実態は(山形県子育て推進部調査 平成25年9月)
調査目的
長期にわたるひきこもりなど、社会生活に参加する上で困難を有する若者については、
客観的な定義が明らかでないこと、疾病や障がいと異なり社会的支援が用意されない問
題として捉えられがちであったことなど、その性格上、これまで本人や家族に対する実
態調査では把握が困難とされてきた。
この調査は、地域の実情に通じた民生委員・児童委員や主任児童委員(以下「民生・
児童委員等」という。)に対するアンケート形式の調査を実施することにより、その状
況を把握するとともに、本県における困難を有する若者に対する今後の施策の基本的な
データとすることを目的として実施した。
該当者の人数 1607名、出現率 地域0.14%、市部0.20%
該当者 性別 男性64%、女性20%、無回答16%
該当者年齢(出現率)
15〜19 98名(0.14)20〜29 321名(0.33)30〜39 436名(0.29)若者該当者855名
40〜49 389名(0.29)50〜59 233名(0.15)60歳以上95名(0.02)無回答35名
家族構成(複数回答可)
父915、母1189、祖父135、祖母298、兄弟488、その他208、無回答91
対象者の状況
全体の80%が「ほとんど外に出ない」「買い物程度は出る」ひきこもり状態
困難を有する状況の期間
ひきこもり3年以上3分2、5年以上半数を超える(長期化)
困難に至った経緯(複数回答可)
不登校244、就職出来ず135、失業408、家族関係141、わからない573、
その他191、無回答51 わからないが非常に多く、実態把握が出来ない
支援の状況(複数回答可)
医療機関261、行政機関支援150、NPO等11、相談しているが未解決103
わからない907、その他216、無回答83 わからないが非常に多い。
子ども・若者に現われる「その兆候」
・自分が必要な時以外は家族の人と口をきかない。
・個食になる…ひとりで食べる機会が多くなる。
・自分の部屋に居ることが多くなる。
・趣味の世界や自分の交友関係に秘密主義になる。
・家族と外出しなくなる、家族旅行もいかない。
・交友関係も次第に狭くなってくる。
・自己中心的な考えや行動をとる。
・問題は見えなくなり、外側に現われずに内包されていく。
その代表的な行動である“ひきこもり”は、本人に関わらず「様子をみましょう」「こころにエネルギーが貯まるまで待ちましょう」の対応を行うと、いつまでも回復せずに50代位まで、同じような生活を送るケースが最近多くなった。
ひきこもりの主な二次症状として
・昼夜逆転の生活
・生活リズムの乱れや食行動の異常の結果(過食…肥満、拒食…激痩せ(貧血・生理不順など))
・無気力(低体温・・極端な運動不足、・低血糖・・不規則な食事)
・感覚の鈍磨(室温、気温などの関係なく同じ洋服)生活の質の低下に気が付かない。
・全て自己決定の主観的な世界の形成と関係被害念慮(かんけいひがいねんりょ)
・うつ的な症状(意欲がない、気分がすぐれない、前向きな気持ちになれない)
・統合失調症的な症状(陰性感情が強くなり、被害妄想、幻聴、幻覚を見たような錯覚が起きる)
・他人との交流で情緒的な行動や反応が出来なくなる。(例、どこで相槌を打てば良いのか出来なくなる。会話をどうしたらいいのか困る。挨拶や会釈のタイミングがわからない。他人と協調した行動がとれなくなる。自分ではよく見ているつもりだが、第三者からみると周りが見えない行動をとる)
・こだわりが強くなり、生活全体を支配していく。
・こんなに苦しんでいるのに家族の者は分かっていないと感じると家庭内暴力が起きる。
・父親を極端に避ける。
・母親と共依存が成立している場合がある。
・長期間、投薬しても効果が現れない。
※本人、家族、社会(学校・会社・地域)の三者で考えると、
ひきこもりの人は社会参加していない人をいう。その人が家族とも交流がない人の場合、いきなり、社会と結び付けても上手くいかない。(事例、長引く、問題を起こす等)
基本は社会と結び付きがある家族の人が本人と安心感を含めた繋がりを作り、それを基盤に社会に結び付けることが大切だ。(家族会の意義)
・本人との関係が上手くいかない⇒カウンセリング、
・家族機能が正常に働かない⇒ケースワークや家族カウンセリング、
・本人に異常な行動がしばしば見られる⇒精神科・心療内科への受診や相談、
・家族が無関心・放置⇒公的機関の介入、
・本人が第三者との面会を望むとき⇒家庭訪問、本人に対人不安や不信がない⇒専門家のアウトリーチやピア・サポートなど
ひきこもりを解決するためには、本人の気持ちを家族の人が理解することが大切だ。
そのために家族会に参加して、情報交換をおこなう。
ピア・サポーター養成育成事業(厚労省予算)平成25.26.27年度行われた。
ひきこもりを解決するためにはどうしたら良いか?
それを考えるためには「子どもや若者は何故ひきこもるのか」を考えなければならない。
◎ひきこもるきっかけ その1
○ 対人関係に疲れた(友達・教師・医師・カウンセラー・クラスメート・部活の人・家族etc)少し疲れたから一人でいたい。
○ 自分にとって嫌なことがある。現実逃避したい。(宿題をやっていない。責任の重い仕事が廻ってきた。自信がない。失敗すると取り返しのつかないことになる)
○ 風邪などの病気で寝ていたら楽だった。
○ いじめを受けている。誰も分かってくれない。非行グループから悪さをやるから仲間に入れと脅されている。
○ 試験で悪い成績を取ったショックを受けた。失恋をして自暴自棄になった。
◎ひきこもるきっかけ、その2(二次的要因)
○ 深夜遅くまでテレビを見たり、ネットゲームをやるようになって生活リズムが乱れて、朝、起きられなくなって、学校や職場に行かずひきこもってしまった。
○ 精神的な疲れが溜まって、朝、起きられなくなった。
◎ひきこもりが長引くわけ
○ 自律神経失調症から
○ 神経症などの精神症状から
○ 内的世界の広がりから(アンビバレンツな感情・過剰適応・自己肯定感が持てず、自己万能感の拡がり・被害念慮)
○ 生活リズムと運動不足(体力不足)
○ スキル不足からくる家族や他人との関係性の欠落
○ 精神的退行が出来ない。発達課題をクリアーできない(18歳以下の場合)
以上からくる不定愁訴に似た不安の支配
○ 親や教師の世代と生きる価値観の違いを感じて
○ 大人へのモデルにならない両親や教師・医師・カウンセラ−
成熟社会から起こる価値観の多様化の問題
処方箋
どんな優れた文学者、例えシェークスピアでも、ひきこもりの人の心うちは様々な感情が入り乱れているから正確には表現できない。そこでコミュケーション能力より、私と貴方の二者関係性が大切だ。そのためには、限られた情報を出来るだけ多く集めることが大切だ。
◎親がすべきこと
集めた資料を批判的に見るのではなく、子どものおかれた状況(自分から作った状況?)の苦しさを理解してあげる。(三食喰って、好きなことだけやって、寝たい時に寝るという我侭な暮らし)と、みないで(自ら独房に入って、人にも会えず、買い物にも出かけられず、希望を失っていく子、本当は助けて欲しいと思っているのにそれも言えない子)と見る。
集めた情報を親だけでは分析できないときは、専門家に相談する。
専門家とはひきこもりや不登校の問題の臨床を数多く扱う人で、客観的にコンサルテーションをしたり、判断して貰える人。(精神医学、心理学、教育学、労働経済学の領域を理解している人)
子どもの気持ちを少し理解できると、誰でもが優しく認めることができるはずだ。そこから親子の関係性に変化がみえてくる。